Mediterranean and beyond

TokyoからBarcelonaを超えTel Avivまで。海と空をまたぐおもしろブログ。

中国をもっと知る

中国についてもっと知らなければならないと思っている。

明確なきっかけは、一緒にテルアビブ大学に交換留学に来ている、中国人の同級生の言葉。彼は中国トップの大学の医学部を出ているいわゆるインテリ層であり、個人的にも1年以上知っており非常に信頼できる人物なのだが、彼と話していると今の政権や政治モデル(共産主義+資本主義のmixのようなもの)に対する信頼や、今後の経済発展に対する楽観性が強く伝わってくる。そしてそれは中国の多くの人に共有されているというのだ。

何気ないカフェでの話だったのだが、個人的にはものすごい衝撃を受けた。気づかない内に、自分は中国に対してものすごいバイアスを持っていたことに気づいたのだ。共産主義はワークしないとか、中国は負債の問題でいずれ経済が破綻するとか、勝手に思い込んでいた。ハッとして日本語圏での中国を解説した本をamazonで検索してみると、「不動産バブルで中国は破滅する」とか「習近平による中国の悪夢」とかそういったネガティブなトーンの本で埋め尽くされている。日本にいたことによって、中国に対する強い偏見を、無意識に持ってしまっていたのだと思う。

その会話があった全く同日に、たまたまtwitterでイアン・ブレマーの中国に関する記事が回ってきた(*) TIMEに乗った記事だが、表紙は"China won"。あまりの偶然でこれも衝撃だったが、内容はいかに中国が政治的に安定し、また経済の分野でもAI等の領域で世界をリードする存在になっていくかについて意見が述べられている。まさに、カフェで聞いた同級生の話とリンクしていた。

日本人としてこれからビジネスで勝負していく中で、今中国で起きていることを正確に理解する必要があることを強く感じている。中国に関する記事は正しいものとバイアスが強くかかっているものが混在していて、何が真実かを見抜くのが難しい。だから、現地に行って人と話してネットワークしたり、正しい情報ソースが何なのかを、意識的に把握しなければならない。幸いなことに、MBAのプログラムの一環で上海のCEIBSで授業を取ることになっている。そのチャンスを利用して、1ヶ月近く中国に滞在したいと思っている。その中で、何が起きているかを正確に把握したい。

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China’s Economy Is Poised to Win the Future | Tim

 

 

ナバテア王国。諸行無常!

ヨルダンのペトラ遺跡に行ってきた。この遺跡は死海から南に80km行った渓谷にあり、ナバテア王国という紀元前後に栄えた王国の首都が昔存在していた。遺跡自体は5km2 という広大な広さとなっていて、未だに85%の部分は未発掘になっているとされている。インディージョーンズの映画の舞台にもなった宝物殿というかつての王の為に作られた建物(岩を削って巨大な洞窟にしたもの)が有名。イスラエルからは、今回はテルアビブ内のSde Dov空港からEilatという紅海に面した港町に飛び、そこから国境を陸路で超えてバスで2時間ほどかけてペトラにたどり着いた。

 

世界を知ることで繁栄を築いた

この遺跡がやばいのはまずはナバテア王国という国のそそる感である。ペトラがあったエリアはシルクロードの通商上の重要なエリアで、ナバテアを作った人々は元々はシルクロードで商売をしていたキャラバンであった。ガイドによると、彼らは商品を仕入れるため世界中を旅していた為、例えば中国でどのようなものが生産されているとか、他の国の統治のシステムがどうなっているかとか、そういうことを知っている。そこで、彼らはその知識を使ってこのペトラがあった地に国を作れるんじゃないかと思いつく。彼らは、灌漑のシステムや砂漠でのワインの作り方といった技術的なことから、シルクロードの通商ルート上に関所を用意して税を徴収するといったシステム的なことまで、様々な知識をこの地域に持ち込み、繁栄を築いていった。ガイドの言葉でいえば、今のドバイのような繁栄がこの地に築かれていた。主に税で繁栄を築きながら、国民の多くはキャラバンを続けていた。

この行商人が世界を旅しながら知識を仕入れ、自分たちの王国を作るという成り立ちが、何ともそそる。宗教とか権威じゃなくて、商売とエンジニアリングでのし上がっているのである。繁栄を続けながらも国民はキャラバンを続けていたらしいが、その生活のあり方は(完全想像だが)キャラバンをしている人は数年に一度旅から帰ってきて、「よく帰ってきた!」みたいな感じでナバテアに残っていた老若男女に迎えられたんだろう。なんだこのロマン。

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ナバテア王国。見えている全域が都市だった

ナバテア人のエンジニアリング力

ナバテア人のエンジニアリング力も見所である。彼らは知識を世界中から仕入れていたが、それを王国の中で再現している。例えば、水を引く技術。王国の中に入る為に細い渓谷となっている道を通るが、よく見ると水路の跡のようなものが見える。これは、かつて水を引く為に設置された管であり、水がどこかで詰まらずスムーズに流れるように、2度の傾斜を保つように工夫されている。また、宝物殿の建築にはローマの技術が使われている。この国はかつてローマ帝国の自治州(自治を許され国防をローマから提供されている代わりに、ローマに対して税を払う)のような位置づけであったが、それに連れてローマから技術の知識が入ってきた。宝物殿はものすごい高さになっていて、岩を削って建造されているが、削る過程で岩の大きな部分がボコッと落ちてこないように工夫しなければならない。そのために、まずは削りたい壁面の上まで砂を敷き詰めて、その砂の土台を使って上から岩を削っていき、同時に砂が壁面を抑えつける圧力をかけるため、岩が剝がれ落ちてこないように工夫されている。現代の技術をもってしてもこの砂によって圧力をかける方法でないと綺麗に壁面は削れないようで、その技術力が約2,000年前の当時からあったのである。

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宝物殿。ナバテアが最大勢力を誇った時の王を讃えた建物

諸行無常

この王国は、二つの大きな要因によって廃れていった。一つは、シルクロードの通商ルートが代わり、交通の要衝としての優位性が薄れていったためである。海上貿易が発達するに連れて、交易ルートが紅海を使ったものに切り替わっていった。また、陸上の交易も、シリアを通る道が盛んに用いられるようになった。これらにより、ペトラの優位性が相対的に減ってしまったのである。もう一つが、キリスト教の普及。元々ナバテアはローマの傘下にあった。ローマ自体は元々キリスト教を忌み嫌っていたが、紀元後313年のミラノ勅令によってキリスト教が認められるようになったことを皮切りに、キリスト教がローマの国教となっていった。この影響はナバテアにももちろん及ぶのだが、ナバテア自体は山や石といった自然に崇拝の対象を求める文化があり、この教えがベースに国が造られていたため、キリスト教の普及に伴い信仰の観点から求心力を失ってしまった(ガイド談であり、なぜナバテアもキリスト教を取り入れなかったのかなどわからない点はある)。これらの外的な要因に対処しきれず、紀元後350年頃に都市が放棄され、以後1,500年近く歴史から完全に消えてしまっていた。

まさに諸行無常の世界で、一時期は超絶に繁栄していた国が、最後は放棄されてしまったのである。

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ナバテア王国に続く道

こうした知識をガイドから仕入れつつペトラを見ると、なんとも言えない感動が湧いてくる。今は建物が風化してしまっているが、かつてはここに巨大な国際都市があったのである。世界をいろいろと旅したが、有数の歴史ロマンが詰まった場所であると思った。ナバテアやばし!

シェアリングエコノミーの完成形? - Kibbutz

Abraham toursという旅行会社のツアーで、テルアビブの北にあるKibbutzという共同体を訪れた。

Kibbutzというのは元々はロシアに由来するコンセプトで、ロシア人が現在のイスラエルのエリアに移住し始めた20世紀初頭頃に、コミュニティの人間がそれぞれ生活を支え合うために作られた村のようなもの。この村の中ではあらゆるものがシェアされており、村の持ち物として自動車が共有されていたりとか、中央洗濯所のようなものがあり皆で共有する大きな洗濯機があったりする。

村の中における様々な仕事は分担制になっており、村人のための食堂の仕事であったり、村にあるスーパーの管理であったり、村の中のあらゆる仕事が村人によって分担されている(一部、外部の働き手を雇っているケースもある)。村人たちはKibbutzの外での仕事も持っているが、稼いだ収入は全て村の収入になり、訪れたKibbutzの場合は村人は村からNIS 4,000 (約12万円)の資金を毎月もらい生活している。

村人になる権利を得るためには①村人の一人と結婚するか、②村人の子供として生まれなければならない。それでも村人になる「権利」を得るだけで、自動的に村人になれるわけではない。訪れたKibbutzでは村人の数は2,000人程度になっている。

共産主義的な成り立ちのため、貧しい地域なのかと思いきや、経済的には非常に成功していて、イスラエルの中でも有数の裕福なエリアになっている。村の人間が立ち上げたプラスチックのバルブを製造する事業は、何とイスラエル証券取引所に上場している。そうした収入を得ながら、村人たちは悠々自適に暮らしている。桃源郷のような場所なのだ。

現代の社会にとって示唆がいくつもある場所だと思った。まずは、シェアリングエコノミーというものがあるが、それの究極版とも言えるような社会が築かれている。また、この村の中では信頼が担保されているため、セキュリティにかけるためのコストがかからない。さらに、住民は生活に困ることがないから、余暇を使って彫刻等のアートを楽しみ、クリエイティビティを発揮している。ジェレミーリフキンが著作の中で書いているゼロ限界費用が達成されたような社会が実現したら、こんな感じの暮らしになるんじゃないかと思う。古いシステムの中に未来を見たような気がした。

 

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Kibbutzのメンバーの一人が使用しているアトリエ

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街の至る所にある彫刻アート

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洗濯所。左側の壁にある穴のような所に洗濯したい衣服を投げ入れる。

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公立の学校

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ビーチ

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Kibbutz内のダイニング

 

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Kibbutzの全体像


 

Autumn Festival

イスラエル日本人交流会の秋祭りというものがあった。イスラエルに住む日本人やその関係者、また日本に関心がある人を集めて定期的に開催されているお祭りで、ヨーヨーすくい・射的・輪投げ等の出店と、盆踊り・くじ引き等のエンターテイメントを提供していわゆる日本のお祭りを再現したもの。

街で日本人を滅多に見かけないので、まあ50人くらいの日本人でこじんまりとやっているのかと思いきや、会場には恐らく2-300人くらいの人が来ていた。今回からfacebookを使ってパブリックにも呼びかけたため、それを見たイスラエル人も相当数来ていた。

会場はテルアビブ市内から車で30分くらいかけて行った農家の集落の一画を使わせてもらっており、これがまた味を出している。

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会場となった農業集落の一部

 

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自分はボランティア(のつもりはなかったのだが会場に行ったらTシャツを渡されていつの間にかボランティア扱いされていたw)として運営を手伝って、その中でこちらに来ている日本人/日本と関わりがあるイスラエル人と話したのだが、なるほど国と国の関係をつないでいる人はこれだけバリュエーションがあるのだなと改めて思った。こうした多層的なつながりが少しずつ大きくなって、強い国家間関係になるのだと。イスラエル-日本はまさにその関係が強くなり始める黎明期なので、コンパクトなコミュニティの中に色々なバリュエーションを見ることができた。全体像を捉えているわけではないが、印象に残った活動は以下のようなもの。

 

一つは、まさにイスラエル-日本間の関係性をつなぐことを目的として、活動している人々。イスラエル-日本人とのハーフや、例えばテルアビブ大学で東アジア文化を先攻し日本文化を学んでいる人たち。彼らに話を聞くと、例えば旅行会社を興して日本人をイスラエルに呼び込んだり、貿易商をやって物品のやり取りをすることで交流を深めたり、といった活動をすることを目指している。このモチベーションは、ハーフであるが故にどちらの国の人間にもなりきれず、だからこそ両国をブリッジすることに自分の存在意義を見出すこととか、あるいは日本人のイスラエルに対するイメージがあまりにも実態と離れている!(イスラエルは毎日砲弾が飛んでくるような場所だと思われているとか)からそれを是正したい、というようなモチベーションだったりする。

 

ピュアにビジネスチャンスを目的としてイスラエルに入ってきている人たちもいる。話した人はこちらで日本食の飲食店を運営している人。日本に本店があり、イスラエル支店としてテルアビブに店をオープンした。テルアビブには500店以上の日本食店があると言われているが、そのほとんどがなんちゃって系なので、日本食の人気の割にうまい店がない。それに目をつけているものと思われる。聞くと1日300人とかの来店数がある日もあるらしく、店のサイズと単価を考えても儲かっているんじゃないかと思う。店のブランドを使った美味しいインスタントフード事業(イスラエルのインスタントフードは知る限り本当にまずい)にも乗り出そうとしている模様。こういう人たちがピュアに自分たちの能力(=日本ではスタンダードな飲食提供能力)とマーケットで供給されてもの(=テルアビブで提供されているなんちゃって日本食)とのギャップを見つけて、事業チャンスとしてイスラエルに入ってくることで結果的に日本の認知度が高まる。

 

アカデミックな交流もある。日本の財団の補助金を使ってテルアビブ大学でvisiting studentとして研究を行っている人がいた。自身が行っている研究のテーマを通じた人の巡り合わせによって、イスラエルで研究する運びになったらしい。アカデミックな交流は即効性はないかもしれないものの、例えば論文等を通じて他方国の優れた点を自国に伝えることは、アカデミックな発信から派生する政治、経済へのじわじわとした影響を考えると、長期的なインパクトとしては非常に大きいのではないかと思う。

 

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自分はビジネスの人間としてイスラエルに来ている為、どうしても経済に関する観点にフォーカスしがちである。でも、国家間のつながりというのはもちろん重層的で、経済だけ先行しても文化的にちゃんと繋がっていないと、例えば日本人ビジネスマンがイスラエルに来ても生活が馴染めないからやっぱり日本に帰る、みたいなことになってしまう。黎明期のイスラエル-日本間のつながりの現状が今後どう発展していくかを定点観測していく楽しみができた。

 

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秋祭りの様子

 

Haifa - 宗教が混在する街

Tel Avivから電車で1.5時間程かけて、イスラエル第3の都市であるHaifaに来ている。この街の歴史は古く紀元前14世紀には街があり、その後この地域の宿命のようにフェニキア人、東ローマ帝国ササン朝ペルシア、十字軍、オスマン帝国等に支配されてきた歴史を持つ。現在は海上貿易の重要な拠点となっており、人口30万人を抱える都市になっている。郊外にはMITを超えると言われ、ノーベル賞輩出数が世界10位のイスラエル工科大学(テクニオン)もある。なんといっても、この街のハイライトはバハーイー教の世界第二の聖地である、バハーイー庭園だった。

 

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鉄道駅から歩いてすぐにあるGerman Colonyというエリアの坂の一番下から坂を見上げると、バハーイー庭園がある。この景色は圧巻で、夜にライトアップされた姿はなおやばし。尚、Haifaは"イスラエルのサンフランシスコ"にも例えられるようで、坂にびっしりと建物が建てられた感じはそういうあだ名がつくのもうなづける。まあ、この景色以外にサンフランシスコっぽさがあるところはないが。

 

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夜にGerman Colonyの坂の下からバハーイー庭園を見上げるの図。この一帯はオシャンティな店が並ぶ。

 

バハーイー教とは、バーブ教という宗教にルーツを持つ新興宗教。全世界に189か国、500万人の信者がいると言われ、布教している国の数でいくとキリスト教に次いで世界で2番目の宗教であると言われている。バーブ教イスラムシーア派にルーツを持ち19世紀にイランで興った宗教であるが、イスラム法シャリーア)の廃止などを謳い徐々にイスラム教から分離し(現在はイスラム教だとはみなされていない)、イランの政府から弾圧され、1850年に始祖であったバーブが処刑された。バハーイー教というのはバーブの最初の弟子達の一人であったバハーウッラーバーブの教えを継いでイランで起した宗教で、バーブ教と同様の理由でバハーウッラーがイランから追放されイラクやトルコに逃れ、最終的にHaifaの近くのアッコーという街に流れ着いたことから、この地に強いゆかりを持つ宗教である。

この宗教とバハーイー庭園、いくつかの意味で非常に面白かった。

 

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まずは、バハーイー教の教えが街全体の空気と密接に関係しているように感じたこと。バハーイー教というのは非常に寛容(この描写が正しいのかわからないが)な宗教で、一神教であり神の教えを伝える預言者がいると言っているが、それがアブラハムでもイエスでもムハンマドでもバハー・ウッラー(バハーイー教創始者)でもOKだとしている。また、男女平等やナショナリズムの廃絶なども教えとしており、地球上の人間って皆んな平等だよね、というような考えを持っている。非常にPeacefulな教えを持っているのだ。

そして、この教えが、Haifaという街に体現されているように感じる。この街には、ユダヤ教もいれば、キリスト教のカルメル派、イスラムドルーズ派イスラム教アフマディー教団等様々な宗教が混在(*)しており、それらが平和に共存していると言われている。街角のレストランには、人種も宗教も関係ないよね、というような看板を掲げているレストランまである。こうした街の姿が、バハーイー教の教えとリンクしているように見えるのだ。

 

(*)ちなみに、Haifaひいてはイスラエルには驚くべきことにバハーイー教徒自体はほとんどいない。バハーイー教の教えに政治から距離を置く、というものがあるのだが、イスラエルという国は政治と宗教を巡って非常にControversialであり、そういった国からは今のところ距離を置きたい、というのが理由らしい(ガイドに聞いた)。この国に聖地があるにもかかわらず、信者がほとんどいないのだ。なんちゅうこった。

 

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Haifa内のパレスチナ系料理を出すレストランの軒先に飾ってある看板。ややヒッピー感もある。

 

次に、この庭園自体の美しさがやばい。この庭園自体は1989年から建設が開始され、2001年に完成しているが、庭の手入れの美しさ、建物内の装飾品の綺麗さ、庭園からの景色がすごい。この庭園自体のデザインにはバハーイー教の教えが反映されている部分があり、例えば、下からバハーイー庭園を見上げると全てが左右対称になっているのだがこれは地球上の人々は平等だよね、という教えを反映していたり、それでも花の種類や色が多様に配置されているのは、人間それぞれってユニークだよね、というような思想を反映している。なにこのユートピア感。個人的には庭園内でバーブが祭られている廟があるのだが、この中のカーペットや空間の静けさが非常に美しいと思った。写真の撮影が許されていなかったのが非常に残念。

尚、この庭園自体の建造にはUS$ 250 Milの資金がかかっており、維持費だけで年間数億円の金がかかっている。これらの資金は全て信者からの寄付で成り立っている(庭園に入るのにお金は一切かからない)。

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バハーイー庭園内。左右対称を超意識しているのがわかる。

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庭は綺麗に手入れされている。桃源郷っていう言葉が似合う感じだった。

 

最後に、このバハーイー教という宗教の存在自体を知れたことが、大きな意義であったと思う。イスラエルにいると、宗教間の争い、あるいは宗教内の間の争いに関して、様々な現実を知る。バハーイー教は、それらの争いを避け、平等を訴える。また、政治から距離を置き、ひっそりと存在しているように見える。それが、世界500万人の人に支持され、190か国近くに広がっている。こう言う存在、勢力のようなものが地球上に存在していることを確認できたことが、非常に勉強になったと思う。

 

 

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Haifaはバハーイー庭園以外にも、今回はいけなかったがネアンデルタール人がアフリカから初めてユーラシア大陸に上陸した(!)とされる激アツな遺跡が近郊にあり、オススメである。

Google X | Jack hidary氏の話

Tel Avivにいていいことの一つは、すごい人の話をものすごい簡単に聞けること。今日参加したイベントはGoogleが主催で、スピーカーはGoogle Xの機械学習部門のヘッドであるJack Hidary氏。これが無料で、しかも超簡単にsign upできる。この街のすごいところだと思う。そして、このイベント超面白かった。

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会場のCampus Tel Aviv

 

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まず、Google Xのミッションが個人的に超刺さる。完全に問題解決を志向していて、世の中にこういう課題があるから、それを最新のテクノロジーで解いていこう、というもの。それが、改良程度の話じゃダメなんだと。10倍良くするくらいの改革じゃないとダメだと。この時たまたま例に出されていたのが、ある食糧(確か卵だったと思う)の生産の話で、Jackが関与していたベンチャーでは生産コストを90%カットすることに成功したと。100のコストで生産していたとしてそれが10になるから10倍の生産性だ。こういうことを目指しているらしい。そして、Jackが強く警鐘していたのが、シリコンバレーにはこの10xのカルチャーが浸透していないということ。どの起業家もアプリを作ってちょこっと世の中を改良、みたいなことを目指している。そうじゃダメなんだと。とにかく社会課題をハードなテクノロジーで解決するというミッション感は強く共感した。

 

次に、Google Xが取り組んでいる課題の現状とその解決策の話も面白い。例えば以下のようなもの;

  • ネットへのConnectivityの問題。現状、世界の人口の40%の人しかインターネットへのアクセスがない。これに対してGoogle XがやっているのがLoon Project。通信設備を乗せたバルーンを飛ばして、4Gの通信を提供するもの。バルーンは基本的に制御できず高度しか変えられないが、機械学習で高い所と低い所の気流の変化とその際の高度のコントロールを学習させることで、一定程度バルーンの動きを制御できている。例えばプエルトリコでは95%の人がネットアクセスがないためLoon Projectを実施していたが、当初100のバルーンが必要だと思っていた所この機械学習で動きを効率化し必要なバルーンを20-30にまで減らすことができた。
  • Misdiagnosisという診断ミスの課題。現状、AIが診断した方が人間より正確な病気の診断ができているケースがある。このアプリケーションでの問題はデータの収集。特にアメリカではヘルスケアシステムが中央で管理されていないため、データを集めるために一箇所ずつ病院を周りデータ取得の許可をとらなければならない。また、99%の診断データがdigitalizeされていない。これらが手間がかかる。イスラエルはヘルスケアが中央管理のためデータの取得が容易。
  • 手術プロセスのオートメーション。手術そのものでなく、手術をするまでのプロセス(何を指すのかは具体的にイメージないけど)をAIでオートメーション化する。インドが超すすんでいて、バイパス手術にかかるコストを1,200ドルに下げることができている。同じことがアメリカでは同じ手術が10,000ドルかかる。
  • 教育の問題。今後数十億人規模で高等教育が必要となってくる人が出てくる。今の教育機関の数から試算しても、この数を物理的に教育するのはかなり無理がある。アメリカだけでも700Kの教育の提供者と需要者のギャップがある。だからCourseraのようなオンラインの教育がソリューションになる。更にAIによってその教育の提供がよりパーソナライズされていく。Amazingなことに機械学習のソリューションは例えばガーナのような途上国でも先進国と同様なスペックが出せる。
  • Codeの問題。現在世の中には1.8 Trillion(1.8兆)行のコードが存在する。ただ、今後デジタルで提供されるものを考えると、コードの必要量とプログラマーの数がアンバランスになる(プログラマーが圧倒的に足りない)。だから、どこかのタイミングでコードがコード自体を生み出すような世界になる。
  • 自然災害の問題。自然災害でもっとも被害を出すのは洪水。この洪水の発生と拡散パターンを機械学習で予測させることで、被害を防ぐことができる。
  • Bioの話。構造として、もっと企業がサイエンティストが行っている研究を世の中に出してaccelerateさせることを手伝うべきだと。これに対してはGoogle accelerated scienceというチームがこの課題に取り組んでいる。

こんな話がたたみかけられていた。

 

最後に、いくつかもっと調べなけれなならないキーワードを知ることができた。

一つはExplainabilityという話。AIと倫理という文脈で、政府に仕組みづくりが求められるという話だが、AIが発展することでどんどん提供されるサービスが複雑になる。それをちゃんとサービス提供主に説明させる必要があるという話。例えば飛行機をAIで飛ばすとしたら、ちゃんとどういうメカニズムで動くのかの説明責任があるということ。

もう一つはQuantum Computing。今は研究段階だが、Quantum Computingの実世界のへのアプリケーションが5年以内には出てくる。これは非連続な発展をもたらすだろうと。

 

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Google X、ミッション感もいいし、初めて直接話を聞けてよかった。

 

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Google Tel AvivからのView



 

Family Business とアイデンティティ

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テルアビブのオサレショッピングモール

 

留学中は授業もそうだが友から学ぶという話があるが、こっちのスタートアップ事情に興味があって最近よく行動を共にしている南米出身のSebas(ひとまず仮名)からは多くのことを学んでいる。彼は穏やかながらリーダーシップがあり、祖国の政治に関する話からブロックチェーンまで様々な話を教えてくれるのだが、彼の出自もそうであるファミリービジネスに関する話は非常に腑に落ちた。

 

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ファミリービジネスは定義が難しいところではあるが、会社のオーナーシップが創業家によって持たれ、創業家及びその親族が経営の意思決定権を持っているような会社を指し、IESEにもかなりの数のファミリービジネス出身の人間が来ている。Family business conferenceという世界会議が様々なところが開かれていたり、Family businessに特化した授業や分野があったりして、固有のイシューが存在する経営形態でもある。ハーバードやIESEのケースでもよく扱われている。

 

この経営形態で典型的に問題になるのは、経営権を巡った家族間のConflictである。日本でよく報道される話でいくと韓国のロッテグループの経営権を巡った問題や、欧米で取り上げられるケースでいくとポルシェの創業家の話や、タイのチャロンポカパングループの話が出たりする。

なぜFamiliy Businessで特にこうした問題が出るのかというと、「エモーショナルな対立が生じるため、事態が論理的に整理できず、泥沼になる」という話しになる。家族間同士だからこそ議論に感情が混じり、建設的な話にならないというわけである。ファミリービジネスがダメになるのは創業家から数えて第三世代になる確率が最も高いらしいのだが、この感情の争いに参加する親族が増えるほど、より事態がややこしくなるのは想像ができる。

この話、ファミリービジネスと関係がない身からするとまあそうなんだろうなくらいに聞いていて、そこまでのリアリティを感じていなかった。むしろ、なんでもっと大人になれないかねくらいの感覚を持っていた。そういう風に考えていたところ、Sebasの話を聞いて、一気にこの問題に対するイメージが深まった。

 

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Sebasの家族が経営する会社は南米で小売業を展開しており、従業員700人を抱えている。現在は四つの事業分野を持ち、順調に経営されているようだ。Sebas自身は創業者から数えて第3世代にあたり、彼が最も年長な子供であるため子供の頃から経営者になることを意識させられてきた。

彼とこの「家族間のエモーショナルな対立」がなぜ発生するのかということを話していたのだが、彼の答えはこうだった;

「俺は子供の頃からこの会社の社長になることを約束されており、常にこの会社が自分の人生に中にあった。例えば、子供の頃に初めてサッカーボールを誕生日のプレゼントにもらった際は、そのサッカーボールにこの会社の名前が刻まれていた。それくらい幼い頃から、この会社は自分の人生の一部であり、常にそこにあった。この会社は自分のIdentityの一部なんだ。それと同じ事を、祖父もそうだし、親父も思っている。Identityを争いとは、論理では制御できない。つまり、この会社をどう発展させていくということは、自分自身のidentityにも関わる議論なのだ。だから、ファミリービジネスを巡って感情的な争いになることはよく理解できる」

 

なるほど、という感じだった。何より、普段穏やかな彼が静かながらかなり強い口調でこの話をしており、その姿から事態のリアリティを感じ取ることができた。自分の存在意義や自分らしさみたいなものが揺さぶられる時、そこに大きな感情が発生するのはよくわかることだ。中高の母校の田村校長が月一でアイデンティティの話をしていたのありありと思い出される。このアイデンティティという言葉をファミリービジネスの問題と結びつけることで、非常に理解が進んだと思う。

 

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実体験を語ってもらい、それを追体験することは、相手への共感や、自分の引き出しを増やすという意味で非常に成長を感じる経験だ。もっといろんなものを友達から引き出していきたい。