Mediterranean and beyond

TokyoからBarcelonaを超えTel Avivまで。海と空をまたぐおもしろブログ。

Green Infra

ソニーCSLの船橋さんが寄稿された「メタ・メタボリズム宣言」の中に、下記の文章がある。

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元来、都市空間とは、古来より人間が物資と情報を集積してきた文明の基盤であった。それは、一方で人間の生活を自然の脅威から守り切り離すプロセスでもあり、自然資本と社会資本の再生産過程が分離したところから、現在の環境問題につながる真因が仕込まれていたことになる。

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人は明日どう生きるのか - 未来像の更新

 

以来、「自然資本と社会資本の統合」ということについて考えている。その一環の参考資料として、「決定版!グリーンインフラ」という本を読んだ。

基本的には欧米で先行している、Green Infrastructureという概念(自然資本の力を用いたインフラ設計を行い、防災や生活価値の拡充等につなげるコンセプト)の事例集であるが、下記のような新しい視点を学んだ。

 

1) 生態系の「保全」という思想から、「生態系サービス」という積極的な役割へ

従来の「都市緑化」のようなコンテクストでは、自然資本はコストをかけて保護されるものであった。一方、Green Infrastructureの概念では自然資本はインフラにおいて積極的な役割を担う。

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自然環境を守る存在とせず、人間活動に活用される対象と捉え、また人間活動への便益(サービス)を発生させることを目的化している

~(中略)

スペイン・バルセロナ市における捉え方は、欧州の議論を象徴した事例と言える。同市では、グリーンインフラと生物多様性保全とを連動させた行政計画である「グリーンインフラ、生物多様性戦略2020」を策定している。つまりバルセロナでは、市民への関心が薄かった生物多様性保全の取り組みについて、市民に対するメリットを説明しやすいグリーンインフラを用いることで、環境部門だけでなく多様な事業部門との連携を促し、生物多様性保全の取り組みの幅を広げることに成功している

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Barelona Green Infrastructure

2) 人口減少、過疎化、財政との親和性

人口減少下かつ財源の制約下で、どのようにインフラを成立させるか、繰り返し本書で触れられている。ヤフー安宅さんの「風の谷構想」においても課題視されている地方インフラの運営につながる論点。自身のエネルギーインフラの分散化に関わるプロジェクトにもつながる。

グリーンインフラに対してグレーインフラという概念が紹介されている。要は従来型の工業的なインフラ。グレーインフラとの比較として、グリーンインフラには下記のメリットがあると本書では書かれている。

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一方、生態系インフラは、生態系が提供する多くの生態系サービスが維持・創出されるところに最大の利点があるとしている。また、生態系の順応的な管理により、計画時には予測できなかった事態(不確実性)に対処しやすいことも利点であるとしている。生態系インフラの整備にかかる経済的コストは、初期コストも維持管理更新コストのどちらでも、大規模なグレーインフラと比較してとても小さく、災害がない平時においても生態系サービスを提供することで多くの利益を生み出している

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イニシャルとランニングのコストが下がる(かつランニングの工数が減る)ため、財政負荷を下げて運用できるということだ。

 

3) インフラに関わるTrans disciplinaryな連携

インフラストラクチャーの構想を経済等の単一的な側面だけでなく、多面的に評価する知見がまだ整備されていないという主張。グリーンインフラは環境・生物多様性保全、中期的な経済効果、地域社会への影響等多面的な評価軸があるが、学際的な評価手法は確立されていない。インフラストラクチャー概論にも書いてある通り、インフラの構想を行う際に評価手法の理論的整備は重要であろう。

 

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総合的な評価により、社会に必要なインフラを計画・整備・更新するに当たって、包括的な費用と便益の検討が可能となり、将来世代への効果を考慮した、より良いインフラの選択が可能となる。逆に言えば、限られた一部の機能のみの評価によってインフラが選択されることは、将来の世代に禍根を残しかねない。

インフラの総合的な評価を実行するためには、学術分野だけでなく、地域の多様な関係者との協働による超学際的(トランスディシプリナリー)な連携が求められる。しかし、このようなインフラの学際的・超学際的研究は近年始まったばかりであり、政策担当者が標準的な手法でインフラを総合的に評価することを可能とするような知見の集積は、いまだにない

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上記の視点を踏まえ、インフラにおける生態系と文明の融合ということを考えるとき、下記のようなポイントがあると思っている。

  • 融合が進められる背景は生物多様性の低下や自然災害の増加等の環境要因に加え、人口減少・財政難・過疎化といった社会的な変化
  • 生態と文明の融合は、農業、エネルギー、森林、緑地、治水等の分野において、個別、また融合的にテーマとして現れる
  • 実装にあたっては、トップダウン的な発想とボトムアップ的な発想があり、前者は都市政策のような分野であり、後者はアーバンファーミングやコミュニティーソーラー等のグラスルーツな動きとして現れる
  • 上記のトップダウンボトムアップの活動は、保険の業界のように重層的なシステムを構成し、互いに共存する
  • 極めて分野横断的であり、エネルギーや農業等の専門的な知見に加え、それらを融合・統合しするデザイン的な機能や、運営を実施するにあたってのガバナンスシステム等が求められる
  • 代表的な事例としてはポートランドやニューヨークのハイラインがあり、概念も含めた先進的な事例を今後作っていく必要がある
  • まとめると、ナウシカのような文明観につながる、、

一先ずエネルギーの分野で実装を進めるが、フレームワークの視点として上記を持ちつつ、自分の中で概念を磨いていきたいと思っている。