Mediterranean and beyond

TokyoからBarcelonaを超えTel Avivまで。海と空をまたぐおもしろブログ。

Family Business とアイデンティティ

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テルアビブのオサレショッピングモール

 

留学中は授業もそうだが友から学ぶという話があるが、こっちのスタートアップ事情に興味があって最近よく行動を共にしている南米出身のSebas(ひとまず仮名)からは多くのことを学んでいる。彼は穏やかながらリーダーシップがあり、祖国の政治に関する話からブロックチェーンまで様々な話を教えてくれるのだが、彼の出自もそうであるファミリービジネスに関する話は非常に腑に落ちた。

 

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ファミリービジネスは定義が難しいところではあるが、会社のオーナーシップが創業家によって持たれ、創業家及びその親族が経営の意思決定権を持っているような会社を指し、IESEにもかなりの数のファミリービジネス出身の人間が来ている。Family business conferenceという世界会議が様々なところが開かれていたり、Family businessに特化した授業や分野があったりして、固有のイシューが存在する経営形態でもある。ハーバードやIESEのケースでもよく扱われている。

 

この経営形態で典型的に問題になるのは、経営権を巡った家族間のConflictである。日本でよく報道される話でいくと韓国のロッテグループの経営権を巡った問題や、欧米で取り上げられるケースでいくとポルシェの創業家の話や、タイのチャロンポカパングループの話が出たりする。

なぜFamiliy Businessで特にこうした問題が出るのかというと、「エモーショナルな対立が生じるため、事態が論理的に整理できず、泥沼になる」という話しになる。家族間同士だからこそ議論に感情が混じり、建設的な話にならないというわけである。ファミリービジネスがダメになるのは創業家から数えて第三世代になる確率が最も高いらしいのだが、この感情の争いに参加する親族が増えるほど、より事態がややこしくなるのは想像ができる。

この話、ファミリービジネスと関係がない身からするとまあそうなんだろうなくらいに聞いていて、そこまでのリアリティを感じていなかった。むしろ、なんでもっと大人になれないかねくらいの感覚を持っていた。そういう風に考えていたところ、Sebasの話を聞いて、一気にこの問題に対するイメージが深まった。

 

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Sebasの家族が経営する会社は南米で小売業を展開しており、従業員700人を抱えている。現在は四つの事業分野を持ち、順調に経営されているようだ。Sebas自身は創業者から数えて第3世代にあたり、彼が最も年長な子供であるため子供の頃から経営者になることを意識させられてきた。

彼とこの「家族間のエモーショナルな対立」がなぜ発生するのかということを話していたのだが、彼の答えはこうだった;

「俺は子供の頃からこの会社の社長になることを約束されており、常にこの会社が自分の人生に中にあった。例えば、子供の頃に初めてサッカーボールを誕生日のプレゼントにもらった際は、そのサッカーボールにこの会社の名前が刻まれていた。それくらい幼い頃から、この会社は自分の人生の一部であり、常にそこにあった。この会社は自分のIdentityの一部なんだ。それと同じ事を、祖父もそうだし、親父も思っている。Identityを争いとは、論理では制御できない。つまり、この会社をどう発展させていくということは、自分自身のidentityにも関わる議論なのだ。だから、ファミリービジネスを巡って感情的な争いになることはよく理解できる」

 

なるほど、という感じだった。何より、普段穏やかな彼が静かながらかなり強い口調でこの話をしており、その姿から事態のリアリティを感じ取ることができた。自分の存在意義や自分らしさみたいなものが揺さぶられる時、そこに大きな感情が発生するのはよくわかることだ。中高の母校の田村校長が月一でアイデンティティの話をしていたのありありと思い出される。このアイデンティティという言葉をファミリービジネスの問題と結びつけることで、非常に理解が進んだと思う。

 

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実体験を語ってもらい、それを追体験することは、相手への共感や、自分の引き出しを増やすという意味で非常に成長を感じる経験だ。もっといろんなものを友達から引き出していきたい。