ピタゴラスの5度円
Jacob Collier が作曲/編曲の背景にある音楽理論について語っている動画を見て、音楽の裏側にこれほどの理論があることにすごい感動した。正直言っていることのほとんどは理解ができなかったけど、コード進行やリズムの裏側には狙いがあり、出したい曲の雰囲気を形づくるために綿密に計算されているのだ。また、「このコードは何度と何度と何度上の音を足し合わせて作っているんだけど、この組み合わせが何とも言えず甘美なんだよ」というように、左脳的な音楽理論によって右脳的な感情的な響きが生み出されていることに、すごい興味を覚えた。
Jacob Collierが音楽理論について語る動画:
https://www.youtube.com/watch?v=DnBr070vcNE&t=3s
そこで、入門編として「音律と音階の科学」という本を読んでみた。物理学者が現在の音律や音階がどのように数学的に作られ、なぜ現在使われているコードは心地よい響きを生み出すのか、という点を徹底的に科学的に解説してくれる本。めちゃくちゃ面白い。
音律と音階の科学:
感動を覚えた点は多々あるのだが、特に感動したのは現在のドレミファソラシドという音律のルーツがピタゴラスによって数学的に作られ、それが現在の平均律やコード進行など音楽理論の基礎となっているというゾクゾク感のある話。
音というのは、科学的には空気の振動に伴い発生する周波数であり、例えばピアノでハ長調のドの音を押した際に出る音は261.62Hzであり、その半音上のC#は277.18Hz、更に半音上のレは293.66Hzと決まっている。
ピタゴラスは、この周波数の比に着目して、ある音とその音の3倍の周波数を持つ音はよく響くことに気づき、だいぶ端折るもののこの原則からピタゴラス音律という現在使われている平均律の元となる「音の組み合わせ」を見つけた。数学的に良く響く組み合わせを導き出したのである。これが紀元前6世紀とかの話。
そして、この結果、ピタゴラスの5度円というものが導き出された。この図で見ると、Cの右隣にはGの音が記載されているが、GはCから見て「5度上」の音となっており、この5度上の音を順々に記載していくと、1周してCにまた戻ってくるから5度円と言われている(厳密には、ピタゴラスの音律だと周波数的に完全にCに戻るわけではないが)。ここでいうGというのは、Cの周波数を3倍して、それを1/2すると得られる周波数のこと。3倍波が心地よく響くという原則を利用し、一方で単純に周波数を3倍してしまうとCの周波数の2倍以内に収まらなくなってしまうため(ある音の周波数を2倍したものが、オクターブ上の音となる)、3倍した周波数を1/2(オクターブ下の音にする)することによって、Cから上のオクターブ内にGの音を収めている。この原則を利用して、この円が描かれている。
<ピタゴラスの5度円>
すごいのが、これが現在のポピュラー音楽等のコード進行の原則となっているのである。例えば、この円上一番上のCの音を見ると、進行的に行きやすいのは右に一つ行ったGか左に一つ行ったF、このピタゴラスの5度円には描かれていないが短調に切り替えた場合はAmとCmに行きやすいという原則があり、これを全ての音に対して同様の原則を当てはめることができる。コード進行というのはこの原則に則っているのである。
これらの話を読んだ時は、鳥肌が立ったのを覚えている。現代に通じる音楽の原則が、数学的な理論に基づいており、かつ紀元前6世紀にその元ができているのである。普段何気なく聞いている音楽も、この自然界の法則みたいなものに規定されて、構成されている。
この体験を通じて思ったのは、もちろん音楽理論はもっと深いところを知っていきたいなあと思いつつ、物事の表面には見えない裏側のシステムを見るということは、すごい楽しい経験なんだということ。分かりやすい例で言えばあらゆるデジタルな生産物の裏側で働いているコードであったり、社会を規定している法体系や、もっと普遍的なことでは宇宙の原理みたいなものがある。表面には見えていなくても、裏側にある法則がシステムを動かしているわけで、この裏側の世界をもっと手を動かしてみてみたいという気分にどんどんなってきたのが大きなtake awayだった。