イスラエルから見た日本の文化観に関して | Dr. Grossbergの講演
イスラエルにある日本大使館主催で、Waseda Business Schoolの元教授であったKenneth Alan Grossbergさんの講演があったので、日本大使館まで行って聴いてきた。
講演のタイトルは、"A consumer's paradise or not"で、日本の消費者行動やマーケットの特徴に関しての講演。こんなんイスラエルでやって誰が聴くのかと思っていたら、会場は60-70人入っていて満席状態で、しかもほぼイスラエル人を中心とした非日本人。加えて、その内の70%近くは日本に行ったことがあるということだったから、驚き桃の木だった。
内容はいわゆる日本の文化ってこんな感じだよね、こういう良いところ悪いところあるよね、っていう話だったが、イスラエルから見た日本観という意味で面白い点が結構あったので、ポイントを抜き出したい。
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1. イスラエルから見て日本のイケてないとされている所が結構面白い
日本の良いところは、清潔だよね、とか礼儀正しいよね、というところでまあわかったのだが、イケてないところは以下のようなものが挙げられていて、なるほどという感じがした。
- 飯の一個一個のポーションが小さい。ミニマルなのはわかるのだが、足りない。
- 確かに物価が高い。東京とNYを比較しても、東京の物価は高い。不動産のレントとかレストランは比較的安いけど、生鮮食品が高い。
- スーツとかが身体に合うものがない。
- ハラル認証の店がマジで少ない。
- 良いチーズがない。
- 良い家具が高い。あるいはそもそもない。
- パンとかケーキとかがマジで高い。
- 外人向けのサービスがやっぱ少ない。(日本は"Carefully isolated market")
- 老人に対して何で交通費のサポートないの?(電車を想定しているものと思われる)
- 銀行のサービスはマジでクソ。
2. 日本の製品(プロダクト)に対するこだわりって結構独特だよねという話
Kennethさんが言ってたのは、日本はプロダクトに対するHollistic viewを大切にするんだと。つまり、ただ中身が良いだけじゃなくて、その中身をどのように客に届けるか、その見た目はどうか、といったトータルな体験を重視する。例えば、バナナを一本一本包装するとかそういうことをやる。これはイスラエル人からすると良いと思う反面、イスラエル人ならまずしない発想らしい。
あとは、安心感に対するこだわり。狂牛病が発生した際にアメリカからの牛肉を完全に輸入停止にすることなどは、(政治的に利用した可能性という側面はさておき)かなり敏感だよね、ということらしい。
若干違う話だが、日本人のRobot friendly具合も欧米から見ると不思議らしい。老人ホームで人型ロボットが老人とのコミュニケーションで活躍するのも、欧米的には不思議とのこと。これは、日本人は「気を使う」人種だから、逆にロボット相手の方が気をつかわないで済んで気が楽だからだ、というような説明をしていた。鉄腕アトムとか漫画の影響もありそうだが、結構面白いポイントだと思った。
3. ミニマリズムって結構ユニバーサルに受け入れられていると思ったら、それって思い込みだったんだという話
個人的に、日本の美的感覚の一つの特徴である過剰を廃したミニマリズム的な文化って、なぜかわからないが世界中どの人も共感できるものだと思っていたんだが(完全な思い込みだけど)、この講演とかオーディエンスの反応を見て、「少ないがいい」みたいな文化って別にユニバーサルな話なんじゃないなと実感した。なんか自分の中で「そりゃあミニリズムは最高でしょ」みたいな発想が染み付いていたら、そのクセを認識した気がする。
4. Risk averseな文化をやっぱり日本の組織カルチャーは持っている
講演中に盛んに「日本はFlexibilityがないよね」っていう話をポイントに挙げている人がいたので(Harelさん、としておこう)、講演が終わった後にどう言う意味なのか聞いてみた。その人はイスラエル企業が持っているテクノロジーを日本企業に紹介するブローカーみたいな商売をしている人だったが、彼からすると毎回素晴らしく新しいテクノロジーを持って行っているのに、日本企業は前例主義で中々新しいテクノロジーを採用しないんだ、と言っている。日系の大企業にいた身からすると日本企業の反応の論理は分かって、テクノロジー自体は論理的にはいいものであるとわかっている中だとすると、「良いことはわかるんだけど、なんか信用できるのかわからないよね」っていうような感覚なんじゃないかと思う。この信用できるのか、という点を乗り越えるのにすごい時間がかかるのが日本で、Harelさん曰くイスラエルと日本のカルチャは"Exactly opposite"ということらしいので、彼にフラストレーションがたまるのは仕方ないことなんだろう。ちなみにこの点をHarelさんがGrossbergさんに質問したところ、「世の中には乗り越えられないものもある」みたいな反応でウケた笑
5. 「こんなに礼儀正しくて思慮深い日本人なのに、なんで第二次大戦ではあんなcruelなことをしたんだ」という質問に対してどう答えたらいいかわからなかった
これはGrossbergさんに対して初老のイスラエル人(たぶん)が聞いていた質問だが、自分が答えると考えるとなんか自分なりの答えがないな、と思った。Grossbergさんの答えは、「日本人は組織のOrderに対しては従順なので、軍の命令に多くの人が従ったんだろう」というようなものだったけど、自分も答えるとしたらそういう答えだったろうなと思いつつ、なんか通り一遍だなと思ってしまった。イスラエルは親日感情がかなり高くて、どこ言っても日本人というとウェルカムされるから勝手に自分たちが良い人かのように思い込みがちなのだが(実際日本の文化とかを過剰評価している日本人はいっぱいいる印象)、実際は戦争の時にかなり残酷なこともしているし、負の側面はかなりある。こういう負の側面をもっと認識して初めて、この質問に答えられるんだろうなと思った。尚、この講演ではこういうストレートな質問始め、オーディエンスがかなりはっきりと物事を言うので、講演として非常に面白かった。
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ヨーロッパのビジネススクールにいながらなかなか文化的な側面だけを取り上げて議論することはないので(しかも自分がただ一人の日本人、みたいな状況で)、今回はなかなか面白い経験ができたと思う。